happy birthday

written by 琴音

先に寄稿させていただきました「はっぴーばーすでー/エピソード0」を先に読んでいただくことをおススメします。付き合い始めたばかりの設定です。

「シモン、出来たよ!そろそろ起きて。」

頭上から聞こえてくる彼女の声。
時間は少し前へさかのぼる。

先日、”誕生日を祝いたいから当日は夕食をご馳走させて?”と連絡をもらった僕は、彼女が手料理を作ると踏んで約束の時間よりも少し早く訪ねた。
多少怒られたけれど彼女のその表情を見るのが楽しくてわざと困らせたくなってしまうのもまた事実。
怒りながらもソファに座って待ってる様に言われた僕は大人しく座ってはいられなかった。

「何か手伝おうか?」
「シモンの誕生日なんだから手伝っちゃ駄目でしょ!」

料理の手を止めキッと睨みつけられるもすぐに作業に戻る彼女。これ以上何か言って機嫌を損ねてもいけないか。と、彼女の言う通りに大人しくソファで待つことにした。
まな板の上で食材を切る音や鍋で何かを煮る音。自然と安らぐようなそんな家庭的な音を聞きながら目を瞑るといつの間にか眠ってしまっていた。

ーーーーーー話はここで冒頭へと戻る。

(…待っている間に眠ってしまったのか。)

彼女の声に目を覚ますとソファからリビングテーブルの方へと案内されるがままについて行く。そこにはシモンの好きな料理や見るからに手間を掛けないと作れないような料理が並べられていた。

「…これ、全部キミが作ったの?」
「そうよ、この日の為に何度も練習し………」

最後まで言いかけたが練習したなんて恥ずかしくて言えないと思い途中で口元を抑える彼女。そんな姿に彼がクスクスと笑うと彼女が頬を膨らませて振り返る。

「頑張ってくれたんだね、ありがとう。」

優しく彼女を抱きしめながらお礼を述べると、ぬくもりに浸る間もなく早く座ってと椅子へと案内された。料理が冷めない内に食べて欲しいという気持ちが先行しているようだ。椅子に座ると目の前には手作りのケーキ。既にろうそくに火が灯されている。正面に乗っているチョコのプレートには”シモンお誕生日おめでとう”と少し歪(いびつ)な文字。これも彼女が書いてくれたのだろう。

「シモン、お誕生日おめでとう!」

そう言いながら彼女はお決まりのバースデーソングを口ずさむ。

「ありがとう。」

バースデーソングを聞き終えフッと火を吹き消すと彼女が笑みを浮かべながら拍手をする。無邪気な彼女を見ていると心がとても和む。こんな誕生日を迎えたのは久しぶりかもしれない。

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しばらく彼女の手料理やケーキを味わい、
食器の片づけを一緒に手伝うと一息つこうとソファへと横並びに座った。
あとはゆっくり彼女との時間を過ごそうと思っていると彼女がゴソゴソと死角から何かを取り出した。

「はい、シモン!プレゼント!」
「……え?」

てっきりプレゼントは手料理やケーキだと思っていた。意表を突かれるとはこのことだ。

「シモンが喜んでくれるか分からないけど…。」
「キミが選んでくれたものなら何でも嬉しいよ。開けてみていい?」

コクリと頷く彼女に、ありがとう。と笑みを返すと丁寧に包装紙を開く。
そこには、これからの季節に合う様なセーターと仕事で使えるようなシンプルなYシャツが1着ずつ包まれていた。衣服は自分が普段着ているお気に入りのブランド。サイズもシモンにピッタリの表示。

「これは…もしかして…」
「…うん。あのね、シモンの服のサイズが知りたくてそれで……っ!」

照れながら話す言葉を聞き終わる前に、シモンは彼女を自分の方へと引き寄せ頭を抱きかかえて両腕で胸元へと包み込む。こんなにも自分のことを想ってもらっていいのだろうか…そんな想いに無意識に彼女を強く抱きしめる。

「シモンっ…苦し…っ」
「あ、ごめん。」

彼女の言葉に抱きしめていた力を弱めると、顔を上げた彼女と目が合う。ニコリと笑うその唇に自然と唇を合わせて再度抱きしめる。

「僕の為にこんなに考えてくれたんだね、ありがとう。」

腕の中で恥ずかしそうに笑う彼女。
叶うことならこのままずっと抱きしめていたい。
少しでも彼女との甘い時間を長く過ごせますように。
願わくば次の誕生日も彼女の笑顔が見られますように。

ありがとう、僕の愛おしい人。

先に寄稿いたしました「エピソード0」での主人公ちゃんがシモンの洗濯物をしたがる話は、シモンの服のサイズや着ているブランドを内緒で知りたかったからなのでした。(ブランドは普段着ているものを見れば分かるかもしれませんがそこは温かい目でみてやって下さい)公式10章まで読了の方と、14章まで読了の方と違った感じ方になるお話にしたつもり…です。読んでいただきありがとうございました。