now and forever

written by ほたて

付き合ってる?設定のふたりのお話です。微妙な関係を書いてみました。

何かを思いついた子どものような表情の彼女からお誘いを受けたのは2週間前の話だ。

「11月15日、空いてる?」

僕の誕生日を知った彼女が何らかの計画を立てていることは予想していたし、もちろんその日は空けてある。ただあまりに想像通りに行動する彼女が可愛らしくて、思わず意地悪をしたくなるのは僕の悪いくせだろう。

「……もしかして、先約があったりする?」

まるで迷子になった子犬のような不安そうな顔。八の字に下がった眉毛、整った顔が少しだけ歪む。彼女を形作るすべてが愛おしい。

「大丈夫だよ。きみと過ごすこと以外の約束はないから」

「……よかった」

花が咲いたような笑顔が眩しい。僕の中には存在しない何かを持っている彼女が、キラキラと輝いて見えた。

「それで、今日はどこへ連れていってくれるのかな?」

自動改札を抜けホームに滑り込んだ電車に乗る。案内板に表示された行先からなんとなく見当を付けてはいるものの、それが正解かはわからない。僕の少し前を歩く彼女に声をかけるとお決まりの言葉が返ってきた。

「内緒」

電車を2回乗り換え、着いたのは海の近くの駅だった。うっすらと潮の香りが漂う。駅から真っ直ぐ伸びた道が突き当たりの神社の参道となっている有名な観光地だ。

「じゃあ、行こう」

僕の手に彼女の指先が触れる。触れたいと思っているのは自分だけではないと嬉しくなった。優しいだけの男なら、触れた指先を自分のそれと絡めたりするのだろう。けれど僕は、どうしても意地悪をしたくなってしまうのだ。チラチラと窺う彼女の姿がいじらしく、微笑ましく、僕は今日何度目かの笑いを噛み殺した。

触れるか触れないか絶妙な距離を保ったまま、参道を歩く。食いしん坊な彼女のこと、食べ歩きに興味を示すかと思いきや、それらは何も目に入らないとばかりにずんずん歩みを進めていく。時折僕を振り返って、楽しそうに微笑みながら。

大きな赤い鳥居を抜けると、社殿に向けてたくさんの露店が連なっていた。

「ここでね、冷やしパインを食べたんだ」

「子どもの頃?」

「ハズレ」

人の良さそうな店主から冷やしパインを2本買う。1本を僕に差し出した。途端にむくむくとわきだす意地悪な僕が、彼女の手を掴む。触れ合った手のまま、口に含んだ。みずみずしい甘さとピリッとした痛みが口の中に広がる。

「それで、正解は?」

もう、とむくれる彼女は年齢よりも子どもっぽい。くるくるとまるで万華鏡のように変わる顔の中でいちばん好きなものだ。

「シモンと知り合う前に、夢で見たの。その時は誰かわからなかったけれど、研究所でシモンに会った時、この人だって。……ごめんね、こんな話して」

呆気に取られた顔でもしていたのだろうか。彼女の声ががだんだん小さくなっていく。僕はただ、僕と出会う前のきみが、僕と出会っていたことが嬉しくて仕方ないだけだというのに。

言葉に出来ない喜びと、身体の中を駆け巡る興奮。そんな感覚は初めてで戸惑う。けれど今僕が感じていることを伝えなければ、彼女の曇った顔が晴れないことは容易にわかった。

「ごめん……嬉しかったんだ」

きみと出会う前に、きみと出会っていたことが。僕ときみの間に横たわる奇妙な運命めいたものに、感謝したくなるほどに。

「そっか」

お互い片手に冷やしパインを持っているから、何もない手持ち無沙汰な手を同じように手持ち無沙汰な彼女のそれと触れ合わせた。そのまま指と指を絡ませる。途端に紅く染まる頬。ああ、この表情も

「きみのことが好きだよ」

「うそ……」

彼女の驚いた顔に、今まではっきりとその言葉を口にしたことがなかったことに気づく。自然に「好きだ」とこぼした自分にも驚いたが、そんな俺を彼女に悟らせる訳にはいかない。

「知らなかったの?」

「好きだったら、いいなって、思ってた……けど」

「……けど?」

「も、もう行こう!美味しいレストラン予約してあるんだ」

踵を返した彼女の腕を引いた。バランスを崩した彼女をすかさず腕の中に閉じこめる。小さな身体は僕の中にすっぽりと収まった。顔を上げようとするのを阻止するように、きつくきつく抱きしめる。

きっと今僕の顔は赤くなっていると思う。少し傾きかけた太陽のせいにしたいところだけど、そうじゃないのは明確で、冷静に分析している自分に少しおかしくなった。彼女と一緒にいると僕も知らない「僕」が引き出されていくのだ。それが少しも嫌じゃない。

「今日からきみは、僕の大事な恋人だ」

今まで1年365日の他の日と何ら変わらなかった日が、かけがえのないものに変わった、2019年の誕生日。この先もずっとこんな日が過ごせたらいい。この腕の中の大切な宝物と一緒に――

HAPPY BIRTHDAY SIMON !!!!!!!