純愛、追憶

written by N

主人公の会社が東京にあるという設定です。また、デート「雪の日」の設定に準拠しますのでご注意ください。

 急に舞い込んだ大型案件が締め切り前につき、社内は多忙を極めていた。会議、撮影、編集、会議、追加撮影、編集、編集、編集――毎度のことながら、ピリピリしたこの空気に慣れることはない。私は眠たい目を擦り擦り、コピー機の前で伸びをした。目の前に貼ってあるカレンダーは11月になっていて、明日の15日には赤字の「〆切!」が鎮座している。

「社長は今晩から京都ですよね~いいな~」

 タイピング音とクリック音、それに私のコピー音だけが続くノイズだらけの沈黙を、ユイが唐突に破った。私はコピー機が機械的に紙を吐き続けるのを見つめたまま固まる。心臓の音が徐々に早まっていく。締め切り前日のこんなに切羽詰まった日に京都だなんて、この状況から高飛びするようなものだ。恐る恐る声の主を振り返った。

「そ、んな予定あったっけ……」

 間髪入れずにクミがバンと机をたたき、音を立てて立ち上がった。放り出された椅子が悲しそうにキュル、と鳴く。

「うそでしょ!もしかして忘れちゃったんですか!?」

 苦笑いを返せば真っ赤になったクミが鼻を鳴らし、早口にまくし立てた。

「紅葉といえば京都だよね!ってはしゃいで先月会議ラッシュをねじ込んだの社長じゃないですか!放送は来年なのに……!それにせっかくシモン教授が忙しい合間を縫って日程合わせてくれたんですよ。彼、きっとがっかりします!」
「えっシモンが……?」

 大慌てでデスクに戻りスケジュール帳をバラバラと捲る。コピー機による資料の吐き出しは遠の昔に終わっていたが、そんなことに気を取られている暇はない。何度もページを行ったり来たりして、ようやく目的の日付を見つけた。ミミズののたくったような字の中で、ひときわ丁寧に書かれた字が浮き上がって見える。確かに、今晩から「シモンと京都へロケハン」になっていた。企画書の束を漁ってみると、今日からのスケジュールがビッシリと書かれたファイルが出てきて頭を抱える。私はこんなに大切な計画を忘れていたらしい。

「皮肉にも、俺たちが今やってる番組は京都が舞台なんだよな……」

 カンヤは天を仰ぎ、右手で目を覆って肩を震わせた。ご丁寧にうっうっと嗚咽を漏らしている。隣にいるユイが虚ろな目で「オカルト番組だけどね。」と悪態をついた。
 そこへタイミングよく携帯のバイブレーションが響く。シモンからのメッセージを受信していた。ロック画面に短いメッセージが表示される。

『パッキングは終わった?きみのことだから、まだなんじゃないかと思って』

 返信を打とうとすると肩に手を置かれ、携帯から顔を上げた。そこには盛大に眉を寄せたアンナさんがいて、Tutterの画面を水戸黄門よろしく見せつけてきた。目尻が下がって口は曲がり、見るからに不安そうな顔だ。

「くれぐれも気を付けてくださいね?見てくださいこれ、今話題なんですよ。泥酔した男性が絡んでくるとか細い路地裏に入ったら花街でさらわれそうになったとか……」
「それ、大阪の話なんじゃ……」

 アンナさんは目をぱちくりさせた後、携帯を自分に向けて画面をしげしげと眺めた。そしてぱちんと額に手を当てると目を伏せてゆるゆると首を振る。忙しさは視覚すら曖昧にするらしい。


 吐く息が白く濁っては、天に昇っていく。夜の京都駅は冷え込んでいて、すっかり冬の様相を呈していた。過ぎ行く人は分厚いコートを着込み、足早に過ぎ去っていく。車内の暖房は高い温度に設定されているのか火照ってしまって、冷たい空気が肌に気持ちいい。微かに聞こえるメロディーに誘われて広場に出てみると、巨大なクリスマスツリーと対面した。青々と茂った枝葉に、眩いばかりの電飾が張り巡らされ、赤に黄色にチカチカと瞬いている。辺りに流れるオルゴール調のクリスマスソングにイベント気分を盛り上げられ、こっそりと歌詞を口ずさみながら、『仕事が片付かなくて……遅れて行くね。』と送ったテキストのことを思い出していた。結局あの後「今日中に仕上げるぞ」と逆に士気が上がり、本当に最後の一手というところまで編集を終わらせたのだ。「そろそろ新幹線がなくなりますよ」というアンナさんの一言に肩の力を抜いたのは、シモンからの返信を受信してから随分経ってからだった。

『車内できみの寝顔が見られないのは残念だけど、後の楽しみにとっておくよ。』

 予定を合わせていたにもかかわらず、「チケットの予約はやめておこう」と提案したのはシモンの方で、彼は結局こうなることがわかっていたんだと思う。煌めくツリーを見上げ、ほんとうなら今頃シモンと一緒に居るはずだったのに、とため息をつく。すると後ろからあたたかな何かを肩にフワリと掛けられた。夏草の香りが鼻を掠める。

「そろそろ上着を着ないと凍えてしまうよ……僕に暖めさせたいなら、別だけどね。」

 両肩に乗せられた手の重みと耳元で聞こえた声に、自然と頬が持ち上がってしまう。緩んだ顔を見られたくなくて、俯いたまま彼の方に向き直った。磨かれた革靴にツリーのイルミネーションがほんのりと反射して、色とりどりに光る。

「やっと会えた。」

 シモンが私の髪を優しく撫でたので、ゆっくりと顔を上げた。いつもの穏やかな目が、私を見つめている。

「もしかして、ずっと外で待っててくれてたの……?」

「読みたい本があったから、問題ないよ。」
「でも……ホテルにいてくれてよかったのに。」
「夜の街にきみひとりで出歩かせられないからね。」
「ありがとう。迎えに来てくれるとは思わなかった。」

 ツリーの周りには人が絶えず行き交い、立ち止まる人も多い。それなのに、シモンは私の熱い頬を両手でそっと包んだ。目を覗き込まれる。彼の深い墨色の瞳に、私の驚いた顔が映っている。

「ほんとうは、このツリーをきみと眺めたいと思ったんだ。」

 そう言ってシモンが目を細める。胸がぎゅっと縮んだ心地がして、すこし苦しい。


「お客さんら新婚?めでたいなあ。」

 フロントガラス越しに、京都タワーが光っている。
 運転席に座る男性は気の良さそうな関西弁で、ハンドルを握ったまま振り向いた。もちろん私たちは新婚ではないので、否定しようと助手席の肩に手を置き身を乗り出す。

「わた「京都は初めてなのですが、素敵なところだと聞いて楽しみにしてきました。」

 私の言葉を涼やかなシモンの声が遮った。シモンの横顔はうっすら笑っているが、車内が暗いせいなのか、目は淀んだ色をしている。呆気に取られストンと座席に収まると、膝に乗せていた手を上からつよく握られた。声を掛けようと思っていたが、その緊張感に圧倒されて口を閉ざす。タクシーの運転手はぎょろりと目を回し、前方に向きなおった。信号が変わり、車が発進する。

「そりゃええなあ。紅葉の時期やから人多いと思うけど……」

 運転手の思案するような声に、シモンが答える。

「そうですね。できれば静かに楽しみたいと思っています。ゆっくり見られるところはご存知ですか?」
「そやなあ。」

 そう言ったっきり、運転手さんは黙ってしまった。手持ち無沙汰になり、車窓から景色を眺める。川はライトアップこそされていないものの、向こう岸に佇む店の灯りが川面に零れていた。気持ちがぼうっとしてくる。

「綺麗だね……」

 シモンが私の手の甲をするりと撫でた。彼の手が離れることはない。
 川沿いの道から逸れて細い道に入り、スピードが緩やかになる。やがて停車すると運転手さんが金額を告げた。経費になるから、とシモンを遮り財布を取り出す。おつりを受け取ろうとすると、その骨張った細い手が引っ込められた。

「今の時間やったらまだ『ゆっくり見られるとこ』に連れて行けるけど、どないしはります?」
 運転手さんの口がニィと笑う。私は間髪入れずに答えた。
「ぜひ!!」

 私がホクホクしていると、後ろでクスクスと笑う声が聞こえるので振り返り声の主を睨んだ。

「なんで笑うの?」
「僕の予想通りの反応だったから。」

 私がシモンに抗議をしようと息を吸ったタイミングで、運転手から声が掛かる。

「ほなお釣り。」

 そう言って運転手は先ほど引っ込めた小銭を私に握らせた。手のひらでチャリ、と鳴る小銭を見て運転手の後頭部に問いかける。

「これから移動するんですよね……?」
「お客さんらええ雰囲気やから、特別な。飛ばすさかい、」

「しっかり掴まっててやァ」そう言うか言うまいか、車は急発進し私は座席に背中を打ち付けた。

「っ…大丈夫かい?」

 声をかけてくれるシモンになんとか頷いたが、シートに張り付けられたままでスピードは落ちる気配がない。財布を開けるのもままならず、止む無く小銭をそのままポケットに突っ込んだ。
 しばらく景色がびゅんびゅん過ぎて行き、寂れた住宅地に入るとタクシーは坂道を上り始めた。どんどん細くなるアスファルトの道をタクシーは上っていく。周りから建物が消え、竹藪になり、Uターンすら出来そうにない斜面に挟まれーーようやくブレーキがかかった。暗くてよく見えないが、ヘッドライトの先には寺の門が建っているようだった。その両脇を植物がもっさりと覆っているのが辛うじてわかる。
 タクシーのドアが音もなく開いた。

「この道下れば大通りやから、帰りは別のタクシー拾うとええよ。」
「ありがとうございます。」

糸のような細い目をさらに細くして、運転手は「どういたしまして」と笑った。寺に向かう私たちの背中に、張り上げた声がぶつかる。

「おおきにィ。夜も深いし、気ィ付けてなァ。」


 携帯のライトに頼りながら立派な大門を潜ると、背後から真っ白な月明かりが差し、辺りがさあっと朱色に色付いた。両脇の楓は重く垂れ下がり、高く伸びた木々には隙間なく赤い葉が付いて月光を透かしている。見回す限り一面の紅葉に、言葉を失った。それは上まで果てしなく続いていて途方もなく、ほうと息を吐く。この感動を共有したくて思わずシモンに目を向けると、彼は私が見る前からこちらを向いていたらしい。しっとりとした瞳と目が合った。

「紅葉スポットはくまなく調べていたつもりだったんだけど、まだ穴場があるんだね。」

 シモンは私の表情を見て満足したようだった。

「滑りやすいから、気を付けて。」

 先に踏み出したシモンが手を差し出したので、はっと我にかえり素直に彼の手を取った。夕暮れのような絨毯を踏みしめ、一歩ずつ浅い石段を上る。
入口よりひと回り小さい門を抜けると、赤いトンネルの奥に池が見えた。

 池をぐるっと囲うように赤や橙の紅葉が広がっている。煌々とした月明かりは続いていて、ライトアップされたように明るい。静かな水面に紅葉の姿が鮮明に落ちて、ずっと見ているとこちら側が水の底にいる気がしてくる。こんな場所に、誰もいないなんて。私たちは池の周りをぶらぶらと歩いた。鮮やかな色が気持ちを昂らせているのがわかった。頭がじわじわと侵食されていく。

「シモン、あの……ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう。実は、今回同行をお願いしたのは企画についてシモンの意見を聞きたかったのもあるけど、一番は忙しいあなたが少しでものんびり出来ればと思ってのことだったの。こういうやり方がずるいのはわかってるんだけど……」

 そろりとシモンの顔を伺うと、彼の瞳がチラチラと輝いているのが見えた。

「……ありがとう。きみにお祝いしてもらえるだけで、とても嬉しいよ。それに、僕の誕生日を知っていたなんて、驚いたよ。」
「え?シモンの誕生日はもう少し先だよね?」
「明日、正確には、今日だね。」

 シモンは腕時計を見てそう言った。

「ほんとうに?」
「なんなら、出生届を見るかい?」

 そんな単語が出てくるとは思わず、私は言葉に詰まった。

「……そんなつもりじゃ!」
「冗談だよ。」

むっとしたが、主役が楽しそうなのでヨシとした。

「プレゼントも渡したかったんだけど慌ててて……ごめんなさい。でも明日にはお祝いの用意があって、ランチにケーキをお願いして、……あっ!」
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ!」
「もしかして、サプライズだった?」

 慌てて取り繕うものの、シモンには気付かれてしまったらしい。

「……うん。」
「ふふ、目が泳いでたよ。おばかさん。」

 シモンが私の額をちょんとつついた。私はがっくりと項垂れた。「あんなに入念に作戦を練ったのに……」と溢すと、シモンが聞き返すように「ん?」と首をかしげる。私は人知れず深呼吸した。

「……あー、あのね、シモン、改めてお誕生日おめでとう。あなたに出会って、人生が回り出した気がするの。あなたの一挙一動、一字一句にいつも一喜一憂してるんだよ。」
「ふふ、ありがとう。これも作戦の内なのかな?」
「誰よりもはやくお祝いするっていうミッションだよ!これだけは絶対成功させたかったから、よかった……」

 ふうと一息つくと、また景色が目に飛び込んでくる。

「ねえシモン、生まれてきてくれてありがとう。あなたが生まれてきてくれたから、いまこうして一緒にいられる。それがね、幸せ。」
「うん……たくさんお祝いしてくれるんだね。」
「お誕生日の人は何度お祝いしてもらってもいいんだよ。だからもう一回……シモン、お誕生日おめでとう。」

 私たちはおめでとうとありがとうを幾度もいくども繰り返した。祝うたび、シモンはリラックスしていくように見えた。いつも薄い壁があり遠く思っていた彼を、とても近くに感じて心がホコホコしてくる。シモンが私の手を握った。

「そんなに言われると、照れてしまうよ。」
「だめだよ、耐えて。」

 私は真剣な顔で返した。まだぜんぜん言い足りない。お祝いに日頃の感謝と、シモンへの思いを添えてつらつらと述べていると、シモンは手で口元を覆ったまま動かなくなり、次第に目が合わなくなり、そしてそっと腕を引かれる。

「もう十分だ、」

 きつく抱きしめられ、視界が暗くなった。苦しそうな声が降ってくる。
 その時、風がないのに周りの紅葉が大きな音を立ててざわめいた。スローモーションのように、残像が見える。シモンは私を抱きしめたまま動かない。なんとか顔を上げると、厳しい表情で揺れる木々を睨みつけているシモンの横顔があり、彼の目が朱色に染まるのを見た。私の不安な視線に気付いたのか、シモンの腕が緩む。はたと目が合い表情が解れた。やがて水面は凪ぎ、静かになる。

「いまの、なに……?」
「……妖狐、という言葉を聞いたことは?」
「狐の妖ってことくらいしか……」
「うん。諸説あるけど、人間を化かす妖狐のことだよ。中国では修行を積むことで、あるいは百年生きるごとに力を得るといわれている。」

「それって……」

 私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「まだ仮説段階だけどね。僕は仮にも科学者だから、本当かどうか議論さえ躊躇われる伝説だけれど……」

 そう前置きしてシモンはとうとうと語り始めた。

「平安時代の末期、鳥羽上皇の元に美しい女性が現れた。彼女は宵闇の中で青白く玉のように光ったことから玉藻前と呼ばれていた。」
「たま……?」
「タマモノマエだよ」

 シモンはゆっくりと言葉を紡いだ。

「彼女はまばゆいほど美しいだけでなくとても賢くて、たくさんの女性を差し置いて彼のお気に入りになったんだ。上皇が玉藻前を傍に置くようになってしばらくすると、彼は病に伏せてしまう。彼女は上皇の傍で手を握り続けた。何をしてもよくならないので、陰陽師に呼びつけ診てもらうことにした。すると彼女が実は妖狐で、上皇の精気を奪っていることが病の原因だと言う。それを聞いて彼女は逃げ出してしまうんだ。彼女が上皇の前から消えて、彼は嘘みたいに体調がよくなった。」
「玉藻前はどうなったの?」
「話の最後には人に討ち取られて、近付くものはすべて死んでしまう殺生石になったらしい。その殺生石で出来たとされる地蔵が京都にあるんだ。彼女は数百年の間生きてきて、国主たちの命を奪っては国を滅ぼしてきたらしい。」
「……もし、もしもだよ?玉藻前が上皇を愛していたなら、長い間何度も報われない恋をしたんじゃないかな。討ち取られた時、彼女は幸せだったかもしれない。」

 シモンは何も言わなかったが、そっと微笑んだような気がした。


 随分と長居していたらしい。月が大きく傾いている。星はない。助言通り、大通りに出てタクシーを探す。しかしハイシーズンだというのに、車が一台も通らない。街灯がカチン、カチンといいながら断続的についたり消えたりして、隣のシモンがぼんやりと浮き出たり、影に沈んだりする。周りの林は静まり返り、寂しい道路が続くだけだった。おもむろにシモンがコートのポケットから煙草を取り出す。

「煙草吸うんだね……意外かも。」
「そうかな。」

 丁寧に封を開ける様を見守る。セロハンが彼の右手の中でクシャ、と鳴った。その爪先が街頭の灯りを鈍くはね返す。

「科学的根拠はないし、所謂迷信だ。それでも、科学は膨大な実験の上に積み重なるものなんだよ。」

 そう言ってシモンは煙草を一本つまみ出し、口に咥えた。彼はコートのポケットに箱とセロハンを押しやると、代わりにマッチ箱を出した。慣れた手つきでマッチを摺ると、橙の火が灯り、シモンの顔が濁った黄色にゆらゆらと照らされる。

「どういうこと?」

 シモンが煙草を咥えたまま、私に目だけを寄越して答えた。

「この方法に効果があるなら、すぐにわかるよ。」

 そっと火をつけて、シモンはマッチを振り火を消した。煙草から紫煙がゆらりと細く漂うと、つよい風が吹き、思わずギュッと目を瞑る。風が止み、おそるおそる目を開けるとそこは後ろから煌々と白い明かりが照らす京都駅のロータリーだった。シモンは封筒型の小さな携帯灰皿を取り出して、まだろくに吸ってもいない煙草を押し込む。呆然としたまま手を引かれ、シモンと一緒にタクシーに乗り込んだ。てっぷりとした運転手が振り返ってにっこりと笑った。

「お客さんら、新婚?めでたいなあ。」

 フロントガラス越しに京都タワーが光っている。

 私は後ろからガンと強く殴られたような気分になった。咄嗟にポケットから携帯を取り出す。一緒になにかが出てきた。それは雪のように白い、椿に似たちいさな花と、あの時運賃として手渡したはずのお札だった。携帯は11月14日、23:59を示している。絶句して隣にいるシモンを凝視すると、シモンは私の手にある花をちらりと見て「チャノキだね」と言った。にこにこしながら運転手に向かって否定するように首を振り、私の耳元で軽やかに囁く。

「もう一度、お祝いしてくれる?」